牛の全頭放射能検査は消費者の不安を解消するか
放射性セシウムに高濃度に汚染された稲わらをえさとしてあたえられた牛の肉から、次々と食品衛生法の暫定規制値を上回るものが見つかっていることから、
東日本の都道府県が続々と牛の全頭検査に乗り出している。
そして今日8月5日、農林水産省は、汚染された稲わらを供与された牛の肉は、検出された放射性セシウムが暫定規制値を下回って食品衛生法全く問題なく食べられるものであっても、買い上げて処分するという処置を決めた。
・平成23年8月5日
農林水産省
東日本大震災について~牛肉・稲わらからのセシウム検出に対する新たな対策について~
http://www.maff.go.jp/j/press/seisan/c_kikaku/110805.html これで、放射能に汚染された牛肉は出回ることが無くなり、一方で損害を被った畜産農家は全て損害を取り戻すことができる。
政府の積極的な措置により、食の安全・安心が確保され、農家の損害も解消されたことから、全てが解決したように見える。
しかし、これらの措置により、牛肉の安全性に関する消費者の信頼が回復するのだろうか?
わたしは全くそう思わない。
なぜなら、これらの措置は畜産農家や県等自治体の食の安全についての「モラル・ハザード」を招くとともに、原因の究明作業を行うモチベーション関係者から消失させ、「なぜこのようなことが起こったのか、その問題は解決されているのか、これからも同じことは起こらないのか」といった消費者の疑問を解消する道を閉ざしてしまうからだ。
今回の措置により、牛肉の消費、特に和牛の消費は長期的に大きく減少していくだろう。畜産農家や自治体は、責任をうやむやにして逃れることにより、逆に自らの首を絞めてしまった。
経過を振り返ってみよう。
事故後直後に農林水産省は、屋外にあった飼料は牛に供与しないように、牧草は収穫して供与しないよう、都道府県を通じて畜産農家に指導を行った。
・原子力発電所事故を踏まえた家畜の飼養管理について(PDF:118KB)
3月19日 農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/pdf/seisan_110321.pdf
そして、牧草については、放射性セシウムについて食品の規制値よりも厳しい300Bq/kgという許容地を設定し、地域ごとに放射性物質を測定し、許容地を上回る間は牧草を牛に供与しないように都道府県を通じて指導した。
そして各県は牧草に含まれる放射性物質を検査し、許容値を上回った場合はその牧草をは家畜には供与せず、刈っておいておき、次に生えてきた牧草についてさらに放射性物質を検査して、下回った場合のみ牧草の供与を再生してきたものに限る行うということを行ってきたのである。一時は関東のほぼ全域、福島、宮城、岩手のかなりの範囲が牧草を供与できない地域となり、畜産農家は大きな負担を被ったのである。
そのかいあって、肉類には放射性物質はほとんど検出されず、検出されても食品衛生法の基準を大幅に下回っていたのである。
・畜産物中の放射性物質の検査結果について
農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/seisan_kensa.html#niku_tamago しかし、7月8日に突然南相馬市産の牛の肉から食品衛生法の暫定規制値を大幅に上回る放射性セシウムが検出された。
そして、調べてみるとその畜産農家は、農水省の指導に反して、原発事故後に周囲の水田から収穫した高濃度に放射能汚染された稲わらを牛に与えていたことが解かった。
さらに、同様の不適切行為を行っている畜産農家がいないか、福島県が県内の畜産農家を調べているうちに、多くの畜産農家が宮城県から稲わらを購入しており、その稲わらが高濃度に放射能汚染されていることが解かった。
さらに通報を受けた宮城県が、稲わらを販売した事業者を調査見ると、その高濃度に放射能汚染された稲わらが北は北海道から南は島根まで日本中に広く販売され、牛に与えられていることが解かった。
・放射性物質が検出された稲わらを給与した肉牛について(第2報)
http://www.pref.miyagi.jp/tikusanka/0400-souchishiryou/110722pr3.pdf そして汚染稲わらが与えられた牛の出荷頭数はすでに3,500頭に及んでいる。それらの牛の肉から食品衛生法の暫定規制値を上回る放射性物質が検出されたケースは既に50例を越えている。
・放射性セシウム汚染稲わらの利用肉用牛農家の概要について
http://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/kaciku/sesiumu_shiyou.html
上記の農水省資料からも解かるように、問題の牛は全国に広く見つかっているが、その原因はほとんど宮城県産の稲わらなのである。
農水省は、3月になってまだ屋外にある稲わらが収穫されるということは無いと思っていたということだが、それなら現場で牧草の供与禁止を指導していた宮城県の職員はそのような事態に全く気づかなかったのだろうか。気づかなかったとしたらとても不思議である。
知事は「牧草が大丈夫でしたので、稲わらについて大丈夫だったろうと考えたということで」と会見で言っているが、これは全くの事実誤認である。宮城県は全域が一時は牧草の供与が禁止されており、「牧草が大丈夫になった」のはつい最近であり、しかも大部分の地域で一度刈り取ったあとに生えてくる再生草以外は供与しないように宮城県が指導を行っているのである。また、農水省が指導文書で「粗飼料」という言葉を使っていたので、それを農家が勘違いしたという農家の言い分を認めているが、これは全く事実誤認である。畜産農家配布用に農林水産省が作った3月19日通知に添付されたチラシには「飼料」という言葉は使われているが、「粗飼料」という言葉は使われていない。えさとして与える稲わらを「飼料」では無いと思ったという言い訳は詭弁としか思えない。
・宮城県知事記者会見(平成23年7月19日)
http://www.pref.miyagi.jp/kohou/kaiken/h23/k230719.htm
宮城県知事は、汚染稲わらを県内畜産農家が牛に与えたのも、汚染稲わらが宮城県から日本中に販売されたのも、現場で一部始終を知っていたはずの宮城県のせいではなく
「農林水産省の責任である」と言っている。 シンプルに言うと、「農水省の指導に宮城県が従わず問題を起こしたことについては、農水省に責任がある」と言っているのである。不思議としか言いようが無い。
こうして責任がうやむやにされた上に、国民の税金を使って汚染稲わらが供与された牛の全頭買い上げが行われ、さらに国民の税金が使われて牛の全頭検査が行われるのである(宮城県は必ず国に検査費用の負担を要求するだろう)。国の指導に従わなかった畜産農家や自治体が負担を担うことなく、放射能汚染された牛肉を食べさせられた被害者である消費者が税金によって負担を担うのである。
このような状態でモラルハザードがおきるという恐れを消費者が抱かなければそれはまたとても不思議である。また、同じことは今度は米や他の作物でおきないとも限らないと消費者が恐れをいだかないとしたら、これもまた不思議である。、
東日本の都道府県が続々と牛の全頭検査に乗り出している。
そして今日8月5日、農林水産省は、汚染された稲わらを供与された牛の肉は、検出された放射性セシウムが暫定規制値を下回って食品衛生法全く問題なく食べられるものであっても、買い上げて処分するという処置を決めた。
・平成23年8月5日
農林水産省
東日本大震災について~牛肉・稲わらからのセシウム検出に対する新たな対策について~
http://www.maff.go.jp/j/press/seisan/c_kikaku/110805.html これで、放射能に汚染された牛肉は出回ることが無くなり、一方で損害を被った畜産農家は全て損害を取り戻すことができる。
政府の積極的な措置により、食の安全・安心が確保され、農家の損害も解消されたことから、全てが解決したように見える。
しかし、これらの措置により、牛肉の安全性に関する消費者の信頼が回復するのだろうか?
わたしは全くそう思わない。
なぜなら、これらの措置は畜産農家や県等自治体の食の安全についての「モラル・ハザード」を招くとともに、原因の究明作業を行うモチベーション関係者から消失させ、「なぜこのようなことが起こったのか、その問題は解決されているのか、これからも同じことは起こらないのか」といった消費者の疑問を解消する道を閉ざしてしまうからだ。
今回の措置により、牛肉の消費、特に和牛の消費は長期的に大きく減少していくだろう。畜産農家や自治体は、責任をうやむやにして逃れることにより、逆に自らの首を絞めてしまった。
経過を振り返ってみよう。
事故後直後に農林水産省は、屋外にあった飼料は牛に供与しないように、牧草は収穫して供与しないよう、都道府県を通じて畜産農家に指導を行った。
・原子力発電所事故を踏まえた家畜の飼養管理について(PDF:118KB)
3月19日 農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/pdf/seisan_110321.pdf
そして、牧草については、放射性セシウムについて食品の規制値よりも厳しい300Bq/kgという許容地を設定し、地域ごとに放射性物質を測定し、許容地を上回る間は牧草を牛に供与しないように都道府県を通じて指導した。
そして各県は牧草に含まれる放射性物質を検査し、許容値を上回った場合はその牧草をは家畜には供与せず、刈っておいておき、次に生えてきた牧草についてさらに放射性物質を検査して、下回った場合のみ牧草の供与を再生してきたものに限る行うということを行ってきたのである。一時は関東のほぼ全域、福島、宮城、岩手のかなりの範囲が牧草を供与できない地域となり、畜産農家は大きな負担を被ったのである。
そのかいあって、肉類には放射性物質はほとんど検出されず、検出されても食品衛生法の基準を大幅に下回っていたのである。
・畜産物中の放射性物質の検査結果について
農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/seisan_kensa.html#niku_tamago しかし、7月8日に突然南相馬市産の牛の肉から食品衛生法の暫定規制値を大幅に上回る放射性セシウムが検出された。
そして、調べてみるとその畜産農家は、農水省の指導に反して、原発事故後に周囲の水田から収穫した高濃度に放射能汚染された稲わらを牛に与えていたことが解かった。
さらに、同様の不適切行為を行っている畜産農家がいないか、福島県が県内の畜産農家を調べているうちに、多くの畜産農家が宮城県から稲わらを購入しており、その稲わらが高濃度に放射能汚染されていることが解かった。
さらに通報を受けた宮城県が、稲わらを販売した事業者を調査見ると、その高濃度に放射能汚染された稲わらが北は北海道から南は島根まで日本中に広く販売され、牛に与えられていることが解かった。
・放射性物質が検出された稲わらを給与した肉牛について(第2報)
http://www.pref.miyagi.jp/tikusanka/0400-souchishiryou/110722pr3.pdf そして汚染稲わらが与えられた牛の出荷頭数はすでに3,500頭に及んでいる。それらの牛の肉から食品衛生法の暫定規制値を上回る放射性物質が検出されたケースは既に50例を越えている。
・放射性セシウム汚染稲わらの利用肉用牛農家の概要について
http://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/kaciku/sesiumu_shiyou.html
上記の農水省資料からも解かるように、問題の牛は全国に広く見つかっているが、その原因はほとんど宮城県産の稲わらなのである。
農水省は、3月になってまだ屋外にある稲わらが収穫されるということは無いと思っていたということだが、それなら現場で牧草の供与禁止を指導していた宮城県の職員はそのような事態に全く気づかなかったのだろうか。気づかなかったとしたらとても不思議である。
知事は「牧草が大丈夫でしたので、稲わらについて大丈夫だったろうと考えたということで」と会見で言っているが、これは全くの事実誤認である。宮城県は全域が一時は牧草の供与が禁止されており、「牧草が大丈夫になった」のはつい最近であり、しかも大部分の地域で一度刈り取ったあとに生えてくる再生草以外は供与しないように宮城県が指導を行っているのである。また、農水省が指導文書で「粗飼料」という言葉を使っていたので、それを農家が勘違いしたという農家の言い分を認めているが、これは全く事実誤認である。畜産農家配布用に農林水産省が作った3月19日通知に添付されたチラシには「飼料」という言葉は使われているが、「粗飼料」という言葉は使われていない。えさとして与える稲わらを「飼料」では無いと思ったという言い訳は詭弁としか思えない。
・宮城県知事記者会見(平成23年7月19日)
http://www.pref.miyagi.jp/kohou/kaiken/h23/k230719.htm
宮城県知事は、汚染稲わらを県内畜産農家が牛に与えたのも、汚染稲わらが宮城県から日本中に販売されたのも、現場で一部始終を知っていたはずの宮城県のせいではなく
「農林水産省の責任である」と言っている。 シンプルに言うと、「農水省の指導に宮城県が従わず問題を起こしたことについては、農水省に責任がある」と言っているのである。不思議としか言いようが無い。
こうして責任がうやむやにされた上に、国民の税金を使って汚染稲わらが供与された牛の全頭買い上げが行われ、さらに国民の税金が使われて牛の全頭検査が行われるのである(宮城県は必ず国に検査費用の負担を要求するだろう)。国の指導に従わなかった畜産農家や自治体が負担を担うことなく、放射能汚染された牛肉を食べさせられた被害者である消費者が税金によって負担を担うのである。
このような状態でモラルハザードがおきるという恐れを消費者が抱かなければそれはまたとても不思議である。また、同じことは今度は米や他の作物でおきないとも限らないと消費者が恐れをいだかないとしたら、これもまた不思議である。、
by touten2010
| 2011-08-06 02:52
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